ことほぎのきみへ

「ひさとさん」

「…いろは」


ベッドの上に仰向けで寝転んで
何かを考え込んでいた様子のひさとさんが
むくりと起き上がって私を見る


「あの、矢那さんに…」

「うん。怒られた
でも、これは自業自得だから」


私をリビングに移動させた後
矢那さんは部屋に残したひさとさんの所に戻った

誤解だと伝えて
矢那さんは冷静さを取り戻したけど
それでも怒ってる気配は消えなくて

だから、心配だった

ひさとさんが殴られてたりしたらどうしようって

……わりと本気で


「いろはも。本当にごめん」


殴られたりはしてなかったみたいだけど
かなり絞られたのか
ひさとさんはぐったりしてて

私はそんなひさとさんがとにかく心配で


「……嫌な事、あったんですか?」

「……ちょっとね」


ひさとさんの傍に近付いて、隣に座る


「…」

「…」


じっと無言で見つめると
私のその視線にひさとさんは折れて


小さく話し出した


「今日はしつこかったんだ。勧誘」

「前に言ってた絵の?」

「そう。で、嫌いな人達も一緒にいて」

「……嫌いな人」

「………あの人達は本当に
絵を金にすることしか頭にないのかな」


呆れと怒りとが混ざったような声
表情も少し嫌そうに動く


「俺の親が死んだときも
一緒に仕事をしてた仲なのに悼むよりも先に
母さんの未完成の作品の心配をしてた」