ことほぎのきみへ

慌てて応答表示をタップした


「……もしもし?」


ちらりとひさとさんに目を向けながら電話に出る

……相当熟睡してるみたいで
騒がしい着信音や、私の声にも反応せず
目を閉じたまま


ほっとしながら電話先の相手の声を待った



『あ、いろはちゃん?』

「矢那さん、こんにちは」


電話をかけてきたのは矢那さんだった


『あのね、もしひさとの家に行くなら
お願いしたいことがあったの』

「あ、今ひさとさんの家にいます」

『あら、タイミング良かった
冷蔵庫の奥に賞味期限が切れそうな食品
入れっぱなしだったの思い出して
それ使ってもらいたいなって』

「分かりました。使わせてもらいますね」

『お願いね。
後、ひさとにも伝えたいことあったの
今いる?』

「ひさとさん、寝てます」

『あら』

「ひさとさんもお酒飲んだりするんですね」

『…酒?』

「はい。寝酒ってやつですかね?」


……まだ夕方だけど


何気なく話のネタにと思って発した言葉に
電話先の矢那さんの声があからさまに固くなる


『……いろはちゃん
今日は何も作らなくていいから、帰りなさい』

「え?でも、賞味期限…」

『いいから。ひさとが起きる前に帰りなさい
いいわね?』


言い終わる間もなく
急かすように矢那さんは再度言う

焦ったようなその声に私は首を傾げる

私の困惑が伝わったのか
矢那さんは少し声を柔らかくして


『…説明したいとこだけど、これから仕事なの
とにかく、早く帰りなさい』

「わ、分かりました」

『電話切ったらすぐ帰ること』

「は、はい」

『じゃあね。早く帰るのよ』

「……はい」


最後まで念を押すように強調して
矢那さんは電話を切った