ことほぎのきみへ

「こんにちは」


玄関のドアを開けて中に入る

インターホンは少し前から押さなくなった



「…」



いつもなら
声に気づいてひさとさんが出迎えてくれる


だけど



「……ひさとさん?」


……


再度呼び掛けても返ってくるのは沈黙だけ


……いない?

いや、でも鍵……
さすがに鍵を開けっ放しで外には出てないはず



……そういえば、ひさとさん前に


『リビングにいない時は2階にいるから』


って言ってた



「お邪魔します」



靴を脱いで2階への階段をあがる


……上に行くのは初めてだけど

多分、2階はひさとさんの部屋とか
ご両親の部屋かな

1階はリビングにキッチン
お風呂にトイレ、それと客室だったから




階段を上がって突き当たり左

扉がみっつ



……



どこでも勝手に入っていいと
矢那さんやひさとさんには言われてるけど
一応ノックをして

一番手前のドアを開ける


「…」


開けた瞬間に鼻先をかすめたのは


……美術室の匂い


絵の具や紙
木製品の匂いが混ざったあの独特な匂い


「…」


目に入ったのは


大きなキャンバス

パレット、スケッチブック

鉛筆にパステル

種類の違う筆や絵の具、

美術書や絵本、写真集…


たくさんの画材道具に美術関連の本



アトリエのような、その空間



本来はそれなりに広さがあるんだろうけど
部屋のほとんどが作品や画材道具で埋まってる