『『そうしたい』わけじゃないなら
しない方がいいよ』


波の音と重なる


それでもその声は凛と響いた



『自分が本当に心からそうしたいって思うならいいんだ』


『だけど、しなくちゃいけないとか
するべきだって義務のように思って
縛られて生きているなら、それは違うよ』



ぱたんとスケッチブックを閉じて
彼は私に顔を向けた


左耳にだけつけられた独特の形のピアスが
太陽の光に反射して
きらきら光って見えた


それがとても強く印象に残った



『誰かのために動くこと
人のために何かをすることに幸せを見出だす人はいる
でも、君は違う』



『きみの『それ』は
他人に自分の存在価値をつけてもらうため
罪悪感や負い目からのものだ』



『…そんなもの必要ないし
そもそも罪悪感や負い目なんて感じなくていいんだよ』







……たったひと言

『奪ってしまった』


言葉にしたのはそれだけ


…それだけなのに



なんで、全部わかるの?



この人は私の事情なんて知らないのに
まるで全部見てきたように言葉を紡ぐ


罪滅しのために生きている事

他人に自分の存在意義を求めていること



誰かのため
人のために生きていれば


許してもらえると思った




『…っひ、っく…う…ぅ』



…涙が止まらなかった


知らなかった

自分の気持ちを解ってもらえることが
こんなに嬉しいこと



『君はもう少し楽に生きる事を覚えなきゃね』



降ってくる言葉はどれも優しくて

頭の上に置かれた手はあたたかくて



…許してもらえた気がして


生きてていいよって言われた気がして


その瞬間は
ここにいることが


生きている事が苦痛じゃなかった