「…優しくなんかねェ」


「嘘っ!

だって私の具合のこと気にかけてくれたりとか、今だってこうして送ってくれてるでしょう?」


「…………」




何もいえなかった。

だが俺はこいつが言うような、そんな出来た人間じゃねェ。

俺が黙っていると、小さく口を開いた。



「…それに、噂なんてデタラメばっかりだもの」


「……?」



その言葉は、どこか遠い方向を見ながら呟かれた。

どうした、と声をかけようとしたとき、



「あ!!私の家、ここっ!」



さっきの言葉を取り消すかのように、声を張り上げてそう言った。

私の家、と指差したそこは、巷で噂の高級マンションだった。



「…ここに住んでんのか?」


「うん、一人暮らしだけど」


「一人暮らし!?」


「うん」




こんな豪邸に住んでるっつーことは、家は社長かなんかか?

だが、一人暮らし…。

気になるがいろいろあるものの、聞き入るなんて野暮な真似はする気がない。




「ここまででいいよっ!!

送ってくれて本当にありがとうっ」


「…別に」



そのままそこを後にしようとすると、




「ごめんね、家と反対方向だった?」


「…別に家にゃ帰んねェ」


「え、なんで?」


「…だりィから」


「そんな、お家の人が心配しちゃうよ?」


「ハッ、んなモンしねェよ。あの親父は」


「…そう?」


「…じゃあな」




…家になんざ当分帰ってねェ、が、帰る気なんざさらさらねェ。

俺は別れを告げて、街中へと向かった。