「スーパームーン」ー マスター&明日香編 ー

第8話 対決

マスターと私と翔さんは老人ホームの駐車場にいた。

誰かを待ってるみたい。

マスターは
「明日香は何があっても車から出るな」って言った。

今日はわがまま言って連れて来てもらったから言う事は聞くけど、車から出れないなんてつまんない。



暫くしてホームの職員に見送られながら、大きなトランクを片手にした、にこやかな男の人が出てきた。

「今日もありがとうございました。とっても楽しい手品でした」

「楽しんで貰えたら僕も嬉しいです」

男は愛想良く職員と話していた。


「明日香。この前おまえに『何故生きている』って聞いてきたのはあの男か?」ってマスターが聞いてきた。

「違うよ。顔はちょっと似てるけど、あんな爽やかな人じゃなかったよ。もっと気味悪い顔だった」と私は答えた。

「やっぱり拳さん、別人なんじゃ無いですか?」

マスターはちょっと考えて
「二人とも車で待っててくれ。俺は少し『櫂』と話してくる」と言って、マスターは車から出て行った。


〜〜〜〜〜〜〜


「櫂。櫂だろ。俺の事覚えてるか? ボクシングジムで一緒だった」

「拳さんでしょ。もちろん覚えてますよ。あの頃はお世話になりました」

「久しぶりだな。突然辞めたから心配してたんだ」

「すみません。色々あって・・・僕は続けたかったんですけど」

「お前には素質があったから俺は期待してたんだがな」

「すみません。拳さんには良くしてもらったのに期待に答えられなくて」

「なあ、櫂。ボランティアしてるんだって?」

「はい。僕も学生の頃、随分ボランティアの人に助けてもらったんで恩返しのつもりでやってます。それより拳さんは何かこのホームに用があるんですか?」

「まあね。でも『櫂』立派になったな」

「いやいや、僕なんてまだまだですよ」

「そうか。頑張れよ。櫂」

「ありがとうございます。拳さんに会えて嬉しかったです」


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マスターが車に戻って来て
「あいつはシロだな。俺を見ても顔色ひとつ変えなかった。むしろ嬉しそうにさえ見えた」と言った。

「そうですね。もしあの事が事実なら拳さんを見たら動揺するはずですから」

「ああ、マサにもう一度調べて貰おう」

また二人だけで会話してる。

私はまた寂しくなって
「ねぇ、そろそろ私にも話してくれても良いんじゃないの? 私が狙われてるるんでしょ?」って言った。

マスターは
「そうだな。もう明日香には話さないといけないのかも知れないな」と言った。



隠れ家に戻ってマスターは美和さんの事を話してくれた。

マスターは魂から絞り出すように話をした。

辛かったと思う。

それはとっても哀しい話だったから私の心は乱れた。

マスターは20年も苦しんできたんだと思ったら、愛しくて泣きそうだった。

美和さんもとっても可哀想だし、お腹にいた赤ちゃんもすごく可哀想。

マスターがなかなか私を受け入れてくれなかった理由も分かった。

マスターは美和さんを殺した犯人と決着を着けない限り前に進めないんだと思う。

だから私はそれまで待っていようと思った。

いつまでも待てば良いのかもわからないけど。

でも私はお母さんの子供だもん。

お母さんは20年以上も待ってる。

会えるかどうかも判らない人を。

私はマスターの側に居れるし、お母さんよりは恵まれてる。

だからマスターが決着するまで待つことにした。

話終わってマスターは大きなため息をついた。

「やっと話せたよ。今まで言えなくて悪かった」って謝ってくれた。
私は
「マスター、ずっと辛い思いをしてたんだね。よく今まで頑張ってこれたね。私に出来る事があったら何でも言って」って言った。

マスターは私の目を真っ直ぐに見つめて
「俺は美和とお腹の子の事は死ぬまで忘れられないと思う。だけどもう前に進みたいんた。哀しみの中だけで人は生きれない。それに俺は明日香を愛してる。その心に嘘はない。犯人との決着が着いたら明日香、俺と結婚してくれないか」って言ったんだ。

突然のプロポーズだったので私はもうびっくりして
「ええ? 私で良いの? 私美和さんみたいに優しくないよ?」って言ったら

「ああ、知ってる。でもな、俺の頑な心をこじ開けてくれたのは明日香だけなんだ。明日香に会ってからやっと笑えるようになった。だからこれからの人生を一緒に生きて行くのは明日香しかいないんだ」って。

私は嬉し過ぎて大泣きしちゃた。

「よろしくお願いいたします」って言うのが精一杯だった。