「スーパームーン」ー マスター&明日香編 ー

第13話 琥珀

「翔、腕を上げたな。もう俺より強くなった」

俺は素直にそう思った。

「何言ってるんですか。俺なんかが拳さんに敵うわけないじゃないですか。あいつらが弱いだけですよ」

翔はいつも謙虚だ。

少女を見ると両膝から血が出ている。

「それよりこの子を病院に連れてかないと」と俺が言うと
「病院には行きたくありません」とその少女は断った。

「でもケガしてるし手当しないと」と翔が優しく言ったが
「お願いします。病院には連れてかないで」と激しく拒絶した。

「拳さん、どうしましょう?」と困った顔で翔が俺を見る。

「翔、おぶってやれ。部屋に連れて行こう」

「えっ、俺がですか?」

「ああ、俺だとその子が嫌がる。ねっ、お嬢さん?」と俺が聞くと少女は翔を見つめて顔を赤らめた。

「ほら、翔が良いってさ。早くしろ。奴等がまた戻って来るかも知れない」



マンションに着いて、少女の手当をしながら事情を詳しく聞く。

少女は名前を『麻衣』と名乗った。

麻衣は幼く見えたが二十歳だそうだ。

一人暮らしで看護婦をしてるが、それだけでは生活が苦しいので、病院には内緒でスナックでバイトしていたらしい。

最初ママは優しくしてくれてたが、一月もすると枕営業するように強要され、断ると病院にバラすと脅されるようになった。

そして昨日、店を辞めたいと申し出ると男達がやって来て監禁され、犯されそうになった。

必死で抵抗して何とか逃げ出したが、あの公園で追い着かれた所に俺達と遭遇したらしい。

なるほど病院に行くのを嫌がった訳だ。

話を聞き終わって俺は
「なぁ、麻衣ちゃん。俺達に依頼しないか?」と聞いた。

「依頼って?」って麻衣はキョトンとした。

「うん。俺達は探偵なんだ。依頼してくれたら解決してあげるよ」

「でも、私・・・依頼するお金は無いです」

「お金は心配しなくても良いよ。奴等から貰う。麻衣ちゃんは暫く病院休めるかな?」と聞くと悲しい顔をして
「私、多分もう首になってると思います。うちの病院厳しくて、副業禁止だったけど、あの人達がバイトの事バラしたみたいだから」

「じゃあ、ここに暫く居れば良いよ。今家に戻ると危ないから」

「えっ。ここに・・・ですか?」

「ああ、遠慮する事はない。依頼人には最大限の配慮をするのが俺達の流儀だ。それに俺達は依頼人には手を出さないから安心して。あっ、でも手を出すのは自由だから」と俺が言うと
「えっ・・・」っと言って、麻衣は翔を見て、また顔を赤らめた。

翔は
「からかわないでくださいよ。拳さん」と翔も赤くなってる。


夜空に大きな月が浮かぶ頃、俺は
「翔、その子を頼む。俺はちょっと出てくるわ」

「どこに行くんです? 俺も行きます」

「だめだ。お前は麻衣ちゃんを守っていてくれ」



俺は麻衣から聞いたスナックに行った。

スナックは駅前のメイン通りから横の路地に入って直ぐの所にあった。

ドアを開ける。

店にはママと若い女が二人、それと目付きの悪いバーテンがいた。

客は誰もいなかった。

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」とママが聞く。

「ああ、良い店だね」

「あらっ、いい男。カウンターでいい?」

「うん、ママの顔が見える方がいいな」

「フフフッ! もう私はおばちゃんですよ。何飲みます?」

「水割りを」

「クミちゃん、お願い」

「はーい」

クミと呼ばれた小太りの陽気な娘が隣に座り
「お客さん、渋いですね。タイプです」と言いながら水割りを作り出す。

さっきからバーテンがチラチラこちらを見ている。

俺はバーテンを睨んで言ってやった。

「おいおいバーテンさんよ、随分俺の顔が気になるようだな?」

すかさずママが
「ごめんなさいね。この人元々目付きが悪いの」と、代わりに誤った。

「いやママ、こいつは俺の事知ってるみたいだぜ。朝はご苦労だったな。仲間のケガは大丈夫だったか?」と言ってニヤリと笑ってやった。

するとバーテンの顔が怒りに変わり
「やっぱりお前か。おい、麻衣をどこに連れていった?」と大声を出した。

その声を聞いて奥から三人の男が飛び出してきた。