第11話 悲哀
お寿司屋さんはちょうど昼休みの忙しい時間が終わった頃だったので空いていた。
カウンターに私を真ん中にして右にマスターが左に遠慮したのか翔さんがひとつ席を開けて座った。
翔さんは愛想が良いので直ぐに店の大将と打ち解けて話し出してた。
店に入って来た武田刑事は
「すみません。お寛ぎの所お邪魔しまして」と慇懃に挨拶した。
マスターが
「刑事さん。まあそうかしこまらずにこっちに来て一緒に食べましょう」と言った。
武田刑事は
「いえいえ、まだ仕事中ですので」と遠慮したが
マスターが
「仕事中でも食事は取るでしょ。奢りますから座ってください。じゃないと話はしませんよ」と意地悪く言った。
「いや、それは・・・」と困った顔を武田刑事がしたけど
マスターが
「まあ、知らない仲でも無いし、この前明日香が世話になったお礼と言う事で」と言うと
観念したのか
「それでは厚かましいですがご一緒させて貰います」と武田刑事はマスターの隣に座った。
「で、刑事さん、どんな話なんですか? 良い話だと嬉しいが」
「申し訳ないですが、あまり良い話でもありません」
「実は昨日マサさんのおじいさんが警察に来られまして、OL殺人事件の犯人を見たと目撃証言をしてくださったんですが」と武田刑事は話し出した。
「ああ、その事はマサから聞いた」
「なるほど。それから言いにくいのですが明日香さんに関する事で」
「大丈夫、明日香はもう狙われているのは知ってるから」
「そうですか。では、どうやらその時も明日香さんの後をつけていたようです。そしてマンションに入って行く明日香さんをじっと見つめていたらしいです」
「つまり下の階の夫婦が殺された事件も俺達の部屋と間違えたかも知れないと言う事だろ」
「そう考えるのが妥当かと」
「俺もそう思ってる。で、じいさん、犯人を知ってるらしいが?」
「そこなんです。今日話したかったのは。実はあの似顔絵は犯人が特殊メイクで変装してる姿だとじいさんが言ってるんです。しかも、その特殊メイクはじいさんがある男に教えたと」
「なんだって? じいさんが特殊メイクを教えたって? 刑事さんは変装に気づかなかったのか?」
「申し訳ない。暗かったし、一瞬見ただけでしたから・・・」
「明日香はあの男に違和感は感じなかったか?」と私の方を向いて聞いてきたが
私は久しぶりのお寿司に感激してたからマスターと武田刑事の話は聞いてなかった。
ちょうどウニを口に入れた所だったので
「えっ? なんのごと?」って聞いてしまった。
マスターはちょっと呆れてた。
「似顔絵の男の顔に違和感はなかったかって聞いたんだ」とマスターはもう一度丁寧に聞いてくれた。
「違和感って?」
「特殊メイクで顔を変えてたような感じはなかったか?」
「わかんないよ。ただ気味が悪い顔としか覚えてない」
「そうか」と言ってマスターは優しい目で私を見ていた。
だから私はアワビを注文したんだ。
「で、じいさんが特殊メイクを教えた男は誰なんだ?」とマスターが聞いた。
「それなんですが・・・ここではちょっと」と言って翔の方をじっと見た。
「まさか? それはあり得ない」
武田刑事は
「くれぐれも気をつけて下さい」って言って結局何も食べずにお寿司屋さんを出ていった。
マスターは私と翔さんの間の空いてた席に座り直して
「翔、食べてるか?」って聞いた。
「はい。もう腹一杯です」
「遠慮せずに食べろよ。まだ若いのだから」
「拳さん。僕はもうそんなに若くはないですよ」
「そうか? なあ最初に翔と会ってからどのくらい経った?」
「もう10年以上になりますよ」と翔は懐かしそうな笑顔で言った。
お寿司屋さんはちょうど昼休みの忙しい時間が終わった頃だったので空いていた。
カウンターに私を真ん中にして右にマスターが左に遠慮したのか翔さんがひとつ席を開けて座った。
翔さんは愛想が良いので直ぐに店の大将と打ち解けて話し出してた。
店に入って来た武田刑事は
「すみません。お寛ぎの所お邪魔しまして」と慇懃に挨拶した。
マスターが
「刑事さん。まあそうかしこまらずにこっちに来て一緒に食べましょう」と言った。
武田刑事は
「いえいえ、まだ仕事中ですので」と遠慮したが
マスターが
「仕事中でも食事は取るでしょ。奢りますから座ってください。じゃないと話はしませんよ」と意地悪く言った。
「いや、それは・・・」と困った顔を武田刑事がしたけど
マスターが
「まあ、知らない仲でも無いし、この前明日香が世話になったお礼と言う事で」と言うと
観念したのか
「それでは厚かましいですがご一緒させて貰います」と武田刑事はマスターの隣に座った。
「で、刑事さん、どんな話なんですか? 良い話だと嬉しいが」
「申し訳ないですが、あまり良い話でもありません」
「実は昨日マサさんのおじいさんが警察に来られまして、OL殺人事件の犯人を見たと目撃証言をしてくださったんですが」と武田刑事は話し出した。
「ああ、その事はマサから聞いた」
「なるほど。それから言いにくいのですが明日香さんに関する事で」
「大丈夫、明日香はもう狙われているのは知ってるから」
「そうですか。では、どうやらその時も明日香さんの後をつけていたようです。そしてマンションに入って行く明日香さんをじっと見つめていたらしいです」
「つまり下の階の夫婦が殺された事件も俺達の部屋と間違えたかも知れないと言う事だろ」
「そう考えるのが妥当かと」
「俺もそう思ってる。で、じいさん、犯人を知ってるらしいが?」
「そこなんです。今日話したかったのは。実はあの似顔絵は犯人が特殊メイクで変装してる姿だとじいさんが言ってるんです。しかも、その特殊メイクはじいさんがある男に教えたと」
「なんだって? じいさんが特殊メイクを教えたって? 刑事さんは変装に気づかなかったのか?」
「申し訳ない。暗かったし、一瞬見ただけでしたから・・・」
「明日香はあの男に違和感は感じなかったか?」と私の方を向いて聞いてきたが
私は久しぶりのお寿司に感激してたからマスターと武田刑事の話は聞いてなかった。
ちょうどウニを口に入れた所だったので
「えっ? なんのごと?」って聞いてしまった。
マスターはちょっと呆れてた。
「似顔絵の男の顔に違和感はなかったかって聞いたんだ」とマスターはもう一度丁寧に聞いてくれた。
「違和感って?」
「特殊メイクで顔を変えてたような感じはなかったか?」
「わかんないよ。ただ気味が悪い顔としか覚えてない」
「そうか」と言ってマスターは優しい目で私を見ていた。
だから私はアワビを注文したんだ。
「で、じいさんが特殊メイクを教えた男は誰なんだ?」とマスターが聞いた。
「それなんですが・・・ここではちょっと」と言って翔の方をじっと見た。
「まさか? それはあり得ない」
武田刑事は
「くれぐれも気をつけて下さい」って言って結局何も食べずにお寿司屋さんを出ていった。
マスターは私と翔さんの間の空いてた席に座り直して
「翔、食べてるか?」って聞いた。
「はい。もう腹一杯です」
「遠慮せずに食べろよ。まだ若いのだから」
「拳さん。僕はもうそんなに若くはないですよ」
「そうか? なあ最初に翔と会ってからどのくらい経った?」
「もう10年以上になりますよ」と翔は懐かしそうな笑顔で言った。


