「スーパームーン」ー マスター&明日香編 ー

第10話 寿司

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『男』の部屋

『男』がひとりで自問自答していた。

「お前は何故また現れたんだ。20年前に閉じ込めたはずだ」

「あの女が俺の前に現れたからに決まってるだろ」

「しかし、お前は関係のない人を3人も殺したじゃないか?」

「久しぶりにあの女を見て興奮したのかもな」

「何を言ってる。あの人は違う女の人じゃないか。お前は本当に狂ってる。私はまたお前を閉じ込めなくてはいけない」

「あの女を殺すまでは俺は消えないよ」

「それなら私はお前を道連れに地獄に堕ちるしかない」

「それは自殺すると言う事か?」

「ああ、これ以上お前に殺人をさせるくらいなら私は死を選ぶ」

「俺がそんな事はさせない」

「・・・・・」


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お昼前

マサさんからマスターに電話がかかって来たみたい。

「拳ちゃん、なんかじいちゃんが警察に行ったみたいなんだ」

「どういう事だ?」

「よくわからないけど、じいちゃん知ってるかも知れない」

「知ってるって何を」

「明日香ちゃんを狙ってる『男』を」

「何故じいさんが知ってるんだ?」

「よくわからない」

「それでじいさんは警察に話したのか?」

「最近の警察はなっとらんとか言ってた」

「何か雲を掴むような話だな」

「すまない。拳ちゃん。じいちゃん、何か怒ってるみたいで話がむちゃくちゃなんだ」

「怒ってるって?」

「拳ちゃんに。何か明日香ちゃんと付き合ってるのは怪しからんとか、俺にもう拳ちゃんと会うなとか言ってる」

「ハハハッ。あのじいさんは前から俺の事が気に入らないみたいだったしな。マサ、その『男』の事詳しく聞いといてくれないか?」

「うん、分かった。ごめんな。何かとりとめなくて・・・」

「いや、ありがとうマサ。じいさんによろしく言っといてくれ」と言って電話を切った。

「何だって? マサさん」と私が聞くと

「よくわからん。俺と明日香が付き合ってるのがマサのじいさんには気に入らないらしい」と苦笑いをしながらマスターが言った。

「何それ? 私マサさんのおじいさんなんか知らないよ」

「そうだよな。俺もあのじいさんは苦手なんだ。どうしてだか嫌われてるらしい」って言って笑ってる。

最近のマスターは機嫌が良い。

だから私も嬉しくなる。

「ふふっ。最近マスターよく話してくれるようになったね」

「ああ、明日香に全て話して気が楽になったからな」

「前は言葉が短かったから理解するのに苦労したよ」

「そうか。それは悪かった。お詫びに食事にでも出かけようか? 何食べたい?」

「えっ、本当に。嬉しい。じゃあ私はお寿司が食べたいな。出来るなら回らないお寿司屋さんが良い」ってわがまま言ったのに

「ああ、良いぜ。俺も久しぶりに食いたい。じゃあ早く準備しておいで」って優しい。

私は急いでお化粧して、精一杯のお洒落した。

「マスター、お待たせ」って言った時、玄関から翔さんが入って来た。

「あっ、お出かけする所でしたか? じゃあまた後程来ます」って翔さんが言ったんだけど

マスターは
「ちょうど良い所に来た。これから寿司食べに行こうとしてた所だ。翔も一緒に行こうぜ」って誘った。

翔さんは私を見て
「いや、明日香さん、こんなに綺麗にお洒落してらっしゃるのに、俺はお邪魔ですよ。お二人で行って来て下さい」って気を使ってくれた。

私はマスターと二人だけで行きたかったけど、マスターも翔さんと行きたそうだし、私も翔さんなら優しいからいいやって思って
「翔さん、一緒に行こっ」って言ってあげた。

翔さんはちょっと困った顔したけど、マスターがもう一度強目に誘うと翔さんも一緒に行くのを承知してくれた。

「それにしても今日の明日香さんは綺麗ですね」って翔さんは誉めてくれた。

翔さんの言い方は素直で全然嫌な気がしないので、またまた私は照れてしまった。

「デヘヘヘ。マスター私綺麗だって」ってマスターに報告すると

「ああ、知ってる」って、また短い言葉で答えた。

もう少しマスターにも誉めて欲しかったけど、今日は気分が良いので我慢する。


私達がお寿司屋さんに着いた時、マスターの電話が鳴った。

「突然すみません。武田です」

「ああ、刑事さん。何事ですか?」

「会って話したい事があるんですがマンションには居られないようなので電話しました」

「あそこは危険なんで当分避難してるんですよ」

「是非お目にかかりたいのですが?」

「今、寿司屋にいるんで、ここまで来てくれるなら会いますが」

「わかりました。直ぐ伺います」

それから1時間程して武田刑事はやって来た。