「栞ちゃんと葉由、カップルみたいだね」

「……いつから見てたの!」と叫んだのは、もちろん栞ちゃんだ。

「はは。内緒。でもちょっと妬けたよ」


彼はからかう。
その熟練した技で、私の温度を上げていく。


大賀君は、肩へと垂れていたイヤホンを左耳につけなおし、「じゃあね」と軽く手を振った。


歩いていくその横顔も、何だか、大好きで。
見えなくなるまで、ずっと。目で追い続けていた。


「葉由って本当に大賀君が好きだよね」

「あ……うん」



長い髪で顔を隠すように俯いた。
すっごく、恥ずかしい。


「いいなぁ。わたしも好きな人ほしいなぁ」と栞ちゃんは大きな伸びをして、そのままあくびをする。


「教室もどろっか!」


眠たそうな顔に笑顔を乗せて、彼女は立ち上がった。


中庭から廊下に入り、教室棟の方へ曲がる。
ふわっと流れ込む風が、今日はとても穏やかだ。


「こんな気持ちいい気候なのに、このあと古典に英語、とどめが現国だよ?」


受験勉強の時に思った。たいていの科目は流、凪、動に分かれる。
古典、英語、現国。それは凪、凪、凪。


「全部寝ちゃいそうだね」


「ねぇ?先生も途中体育いれるとか、してくれたらいいのに」