「あんまり切ない曲って歌わないんだけど」


「え?でも、”陽だまりの世界で”は切ないよね?」


「切ない?コード明るいのに。あれってめちゃくちゃのラブソングだって思わない?」


「……思わなかった」

「まじで?」


考え込む大賀君の横顔を見上げる。


間違えた?合わせるべきだった?
もしかして、傷つけた……?


次第に青ざめていく私に、「じゃあ、どんな歌だと思ってたの?」と彼は問う。



正解が……わからない。
わからないけど、私は。


「えっと……大好きな人が寝ていて、早く起きないかなって、心待ちに眺めているような歌だよね?彼女のことが、すっごく大切で」


「うん。だろ?全然切なくない」


「……彼女のことが大事すぎて、苦しそう」


だって、甘く優しく……だけどこっちまで苦しくなりそうなほど、切なそうに歌ってるじゃん。
そうじゃないの?


「……葉由ってすごいね」


ははっと笑い声をだす大賀君は、正解、みたいにそう言った。
でも、ちっとも笑ってなんかいなかった。


どちらかと言えば、とても。
……泣きそうな、顔。


「どうしたの、大賀君……?」


「んーん。別に」


ふっと、笑顔が消えていく。
その瞬間、胸が締め付けられた。


傷ついたみたいな顔をして、大賀君は前に聴いたメロディーを口ずさむ。


……私が、栞ちゃんに何かを隠すみたいに。


大賀君にも触れてはいけない何かがある。


その悲しそうな笑みの奥が知りたいって、そういうわがままだけは。
……絶対に言ってはいけない。