「葉由すごいね。あんなこと言うなんて、意外だった」


「カムが解散しちゃう気がして……。つい」


「本当に大ファンだよね。毎日聴いてるもんね」


こくっと頷く。大ファンという言葉じゃまだ物足りないくらい、私はカムが大好きだ。それを伝える言葉がみつからないけれど。


ふと、思った。
栞ちゃんに、カムの曲に救われたときのことを話してみようか。


過去の自分を、打ち明けてしまおうかって。


「葉由どうした?」


だけど、この笑顔が一瞬でも曇るのが怖い。


入学してからの楠本葉由に「元不登校の」と足されるのが怖い。



レッテルを張るのは簡単で、見方が変わるのも一瞬だ。

そのレッテルが「普通」とかけ離れていればいるほど、あっという間に、一言で済まされるようになる。


元不登校の子。


そうなりたくない。


「葉由ぅ?」


真っ白な声に、ハッとした。


「ううん、なんでもない」と私は、笑う。



栞ちゃんが部活に行った後。
私は校舎をぐるぐると回って、大賀君を探していた。


やっと見つけた大賀君は、一人、窓辺で空を仰ぎながら、イヤホンを両耳につけている。


「……大賀君」と、そっと肩を叩いた。


振り向いた彼は片耳からイヤホンを引っこぬく。