「ちょっとちょっと。葉由は俺んのだからね」


大賀君の手が私の肩に回ると、慣れた手つきで華麗に引き寄せられた。


「ひゅー」と面白そうに茶化す、いかにも男子っぽい軽いノリが、昇降口に響いている。


私はまたいつものように、赤面して俯く。


「大賀君、あの、私汗かいてるから」


離れて、と身をよじる私を、大賀君は楽しそうに笑う。


「それにしてはいい匂い。湯上り?」


髪に顔を近づける大賀君に耐えられなくて、目をぎゅっと閉じた。


「ね?可愛くない?」とバンドメンバーに言い放つ、大賀君。


からかわれた……。


「こんな子まで大賀にひっかかるとはなぁ……」


内海君は白けた目で私と大賀君を交互に眺めている。


ギターケースを背負っている笠間君が「よいしょ」と立ち上がったかと思えば、パンっと手を叩いた。


「よし、じゃー大賀もうざいことだし、教室いこ!今日また放課後な!」


それぞれが立ち上がり、教室へ向かった。