校舎を出るなり、当たり前みたいにこちらに伸ばされた手を、ドキドキしながら、そっとつかんだ。


触れた瞬間、大賀君は、私の手に存在感を誇示するように、ぎゅうっと握る。


恥ずかしくて……恥ずかしすぎて。いっそのこと空気になっていたい私は、あまり握り返せない。さらに俯き気味に歩く、ときた。


こんな湿っぽい私を、大賀君はどう思うんだろう。


今までの大賀君の彼女っていうのは、みんな彼に似合う、自分に自信ありそうな綺麗なひとばっかりだった。だからこんなに陰気臭く歩く彼女は、初めてだと思う。


「あそこ寄ってもいい?」


大賀君の声に顔をあげた。指さす先。店のショーウィンドウには、楽器がずらりと並んでいる。

「楽器屋さん?」

「うん。ピック買うだけなんだけど。付き合ってくれる?」


ピックって、何?
どこにでもいきます、というふうに、私は大きく頷いた。


「あった」


ずらっと”ピック”が陳列してある棚の前で、大賀君が立ち止まる。


小さい、三角の板。


かがんでピックを眺める大賀君の横顔は真剣だ。


「これ何に使うの?」

「ギター弾くときにベンベンするやつ」


そのジェスチャーから思い浮かんだ三味線を通して、理解した。