「葉由、今からデートしない?」

「デ……デート?」

「うん」


爽やかすぎる笑みを浮かべ、差し伸べた右手は、私の左手をぎゅっと握る。


その瞬間、ザワッと空気が動いた。
勘違いではない。視線の、嵐だ……。


「行こ?」


この視線、無視しちゃうの?


いたずらっぽく笑う大賀君は、教室中のどよめきを楽しむように、私の手を引いて歩いていく。


「ちょ、ちょっと楠本さんが……?大賀と付き合ったの?」


クラスメイトに引き留められて、大賀君の足が止まる。


「うん。みんな邪魔しないでね」



まごつく私なんか軽く飛び越えて、大賀君が答えてしまう。


そこら中であがる悲鳴のような驚愕の声も、無視するとすれば大物だ。


さらに歩く。彼は何も言わない。大物だった。



「……大賀って、楠本さんみたいな子もタイプだったの?!」


目を丸くしながら、クラスメイトは聞いた。


わかる。わたしだってそう思う。
みんな、”なんであの人が?”で頭がいっぱいなんでしょう?


身を縮めて歩く私なんか構わず、大賀君は言い放つ。



「タイプって……。俺は好きになった子がタイプだよ」


はぐらかすみたいに笑いながら。


そこに、私への愛が少しもないことだって、勿論誰もがわかっている。


「葉由のこと、傷つけないでね……?」


栞ちゃんだけが、真面目な顔で大賀君に呟いた。


彼は、ふっと表情を消して、それからもう一度、柔らかい笑みを浮かべた。


「……難しいこと言うね?」


「葉由、行こ」と言われるがまま、廊下に出る。


教室の方を振り返って“ 栞ちゃん、ごめん”、そうくちびるを動かすと、栞ちゃんはフルフルと首を横に振った。