体育の授業。傍の生徒が怪我をして鼻血を出した。

赤い、血が、床を、這う。

鮮明によみがえる事故の記憶。ふっと、目の前が暗くなった。



気が付けば、保健室。

血を見て倒れるなんて、ダサすぎる俺に、隣のベッドで寝ていた女子の先輩が誘惑してきた。



そこから落ちていくのは早かった。


快楽に溺れている間は、何も考えなくていい。


どうでもいい、こんな人生。


死んだっていい。俺はもう何も持ってない。



「大賀君さ、自己紹介の時、元音楽部って言ってたよね?」


金髪のクラスメイトが俺の前に現れた。


「歌うたえる?」


「まぁ」


「まじ!バンドしよう!カム トゥギャザー!」


……なに、それ。


その明るすぎる笑顔に、無表情でついていく。


「じゃーん。新メンバーの大賀君!」


「おー!歌うまいの?」


「わかんないけどイケメンだしよくない?」


第二音楽室はベースとギターの音で満たされていて、金髪がドラムを叩けば、うるさくて、もう思考の入る隙間なんてなかった。



一度聞いた音楽を声にだして歌うと、内海は「やっべーやつ拾っちゃったー!」
と興奮するし、「内海、よくやった!」と笠間は上からだし、「いいね」と栗原だけは冷静で。



『はーくんのバイオリンもピアノも歌も、私は大好きだよ』


……あの声が、よみがえる。



ここにいようかと、投げやりながら、思った。