その声に、瞼があがる。

「まだわかんないけどね?期待外れだったらゴメン!」


クラスの女子は、まるで芸能人の出待ちみたいに、そわそわしながら、まだかまだかと大賀君を待っている。


「みんななんであんな男がいいのかなぁー」


栞ちゃんの声は、ブーイングを巻き起こす。


「かっこよくて、歌うまくて、あのとろけそーな性格だよ?ちょっと軽くても全然いい!」

「そうだよ!狙うなら今でしょ?!」


「選ばれたいよね?遊ばれてもいい!」


「あーもう、わかったよ!ごめんごめん!」


栞ちゃんは呆れ笑いしながら輪から抜け、私の隣に立った。

そして、片手を私の耳に添えて、囁く。



「葉由はどうするの?」

「え……どうって」


「あのチャラ男、また彼女募集期間に入ったら、立候補するの?」


毎回、チャンス逃してきたでしょ?そう、彼女は続ける。


「大賀君が、私みたいな人を彼女にしてくれるわけないよ」


「わかんないよ?葉由可愛いし。でも今までの彼女はギャルっぽい人たちばっかりだったけど……」


「んー……」と唸りながら、栞ちゃんは首を傾けた。


「やっぱりわたしは、葉由とあんな男がどーにかなってほしくないー!」


そう言いながら後ろ頭を掻く。手の勢いが弱まって、ようやく止まると、複雑そうに顔を歪めた。


「チャラいのに……。でも、すきなんだもんね?」


でも好き。でもじゃなくて好き。
コクッと頷いた私を見て、栞ちゃんは「ハァー」と悩まし気に溜息をつく。


「あんな噂きいて、大事な親友を応援は……できないなぁ」


こんなふうに栞ちゃんを心配させる、”大賀君の噂”というのは、この学校の女子なら一度は耳にしているはずだ。


私も初めて聞いたときは、正直なところ、ものすごくショックだった。