……あぁ、寒い。
毛布にくるまって、目覚ましをセットしてから目を閉じる。


スマホのアラームと同時に起きられた。


重たい体を起こして、体温を測る。38度2分。


解熱剤を飲み込んで、準備しておいた服にうすい長袖を羽織って外に出た。


のんびりと並木を抜ける。ずっと、蝉がうるさいほど鳴いている。

こんなにきつい太陽が照り付けているのに、震えるほど寒い。


あと二時間後。大賀君の新曲が聴ける。


絶対に、行かなくちゃ……。


「葉由―!こっちこっち!」


Candy Rainの前で、大きく手を振るのは西田さんだ。


解熱剤が効いてきたのか、寒気が消えた私は、長袖をリュックに仕舞った。


「なんで長袖?UV対策?」

「来る前に熱があって」

「え!?大丈夫なの?何度?」

「大丈夫。もう下がった」

「無理しないでよ?」

「うん」


しばらくして、部活から直接向かっていた栞ちゃんが着いた。
すっかり日焼けした顔で、ラケットケースを背負ったまま、手を振っている。


「行こう!」
「いそげいそげ!」

あの時、こんな風に声を弾ませていた、茶色い制服の生徒がいたな、なんて、少し感傷的になる。



真っ白な建物。
Candy Rain。


中学生の時、あんなに重たく感じた扉は、思いのほかあっさりと開いた。音が流れてくる。他のバンドが演奏中のようだ。



ライブ会場に続く廊下を、西田さんは迷いない足取りで進む。



ドアの先の暗がりに飛び込む。
ステージの白い光が、知らないバンドメンバーを照らしている。



ステージがよく見える位置まで、人混みの暗がりを縫って歩く。



西田さんの強引さで、申し訳ないけど、すごくいい位置にたどり着いてしまった。


ステージと距離はあるものの、ほとんど真ん中で鑑賞できそうだ。


もう少しで、カムに会える。