大賀君という手の届かない星は、染みついた劣等感さえかんじさせない。


だってそうでしょ。途方もない相手なら、比べることも、引け目を感じることもできないんだから。


大賀君の歌声を聴いていると、心のヒリヒリしたところが、少しだけ穏やかになる気がした。一日の大部分を眠って過ごしてきた私に、朝がわかった。


思えば、あれは音楽療法のように働いたのかもしれない。


けどそれは、諸刃の剣だ。
大賀君への憧れが膨らむほど、蓮への罪悪感がかさを増していくんだから。



二年前に触れた、蓮の頬の冷たさ。
それを忘れた日なんて、ないのに。


蓮の傍で一晩中泣いた日。
何もできない自分がいて。それしかいなくて。
悔しくて悲しくて、たまらなかった。


……あの時、「ずっと大好きだからね」と言ったのは、まぎれもなく私なのに。


―――どうして、他の人を求めているの?


蓮が、責めている気がした。