「雪、あきらかに不審者よ! 逃げなさい!」


ウサギさんの声ではっと我に返った私は勢いよく立ち上がる。


「ウサギが喋った!?」


数分前の自分と同じ反応を見せる男性を置き去りにして、私はウサギさんを胸に抱えると全力で不審者から逃げ出した。

そういえば、私……ウサギさんに自己紹介したっけ?

そんな疑問も、あてもなく走り続けているうちに頭の中から抜け落ちる。

そろそろ息がもたないかもしれないと思っていたとき、なにかに足が引っかかった。


「うわあっ」


悲鳴をあげながら、私は踏ん張るものの身体を支えきれずに前につんのめる。

とっさにウサギさんを懐深く抱き込んで、そのまま豪快に土の上を転がった。


「痛たたた……ウサギさん、大丈夫?」


上半身を起こすと、腕や膝を擦りむいていて、じんわりと血が滲んでいる。

その傷口をウサギさんが心配そうに覗き込んだ。