「雪はすごいな。女の子なのに、自分の力でこんなに大勢の人を笑顔にできるんだから」
「私だけがすごいんじゃないよ。エドガーが手伝ってくれたから、大勢の人においしいを届けられたんだよ」
「俺はただ、きみを手伝っただけだ。いつか俺も、きみみたいに誰かの力になれるといいんだけど……」
肩をすくめた彼は視線を『トマトカツ丼』へ落とす。
皆を幸せな気持ちにしたかったのだが、エドガーの心は満足いっていないようで、その切なげに揺れる瞳に私の胸はなぜかざわつくのだった。
***
駐屯地で毎日のように大量のお弁当を作り、異世界に来てから早くも五日が経った。
無心でなにかをしているほうが見知らぬ地に来た心細さやお母さんの死から目を逸らせるので、まったく苦にならない。
今日も戦に出ている騎士の皆さんが帰ってきたときのために駐屯地で昼食を作っていたのだが、「伝令、伝令ーっ」と叫びながらひとりの騎士が走ってくる。
何事だろうとエドガーと顔を見合わせていると、伝令役の兵は「パンターニュ騎士団がベルテン帝国軍を撤退させました!」と続けた。
思わずエドガーと顔を見合わせて、私は子供みたいに飛び跳ねながら抱き着く。


