「このレシピ本の表紙に描かれているのは、フェルネマータ王国でも国王と王妃にしか知らされていないユグベルランドの紋章よ」

「ユグベルランド……ですか?」

「そう、絶対に足を踏み入れることができないと言われている幻の国。でも実在するわ。二十年前に、このフェルネマータ王国の王子がユグベルランドのお姫様を妃として迎え入れるはずだったから」


王妃様はなにをおっしゃりたいのだろう、と眉間にしわを寄せていると話が途切れたのを見計らって今度は国王が口を開く。


「そのユグベルランドの姫はジゼルといってな。私が今の王妃を娶る前に結婚するはずだった女性だ。だが、この国に来る途中で逃げられた」


あの劇になっていた話はエドガーのお父さんである国王と、そのお姫様がモチーフになっていたらしい。

その事実をエドガーも今知ったらしく、驚愕の表情を浮かべていた。


「ユグベルランドに帰ったのだろうが、それを確かめる術は私にはない。国に入るには住人の道案内が必要だからな。でなければ、行く手を霧が阻んで進めん」

オリヴィエが「魔法みたいですね」と呟くと、国王はまさにその通りだと強く頷く。