***


パンターニュ王国を出てから、一週間。

じめっとした暑さがあるカイエンス王国にたどり着いた私たちは、広場にランチワゴンを停めて開店の準備を始めていた。


「さすがは港町ですね、魚の鮮度が抜群でした。それに大量に捕れるからか、値段も王都より一回り安いです」


オリヴィエは木箱を開けて、氷漬けにされた魚介類たちを見せてくれる。

身もぎっしりと詰まっているのがわかって、目利きができるオリヴィエに買いつけを頼んだのは正解だった。


「あ、こんなにたくさん! せっかくだし、お弁当はお魚料理がいいよね」

「雪、あさりがあるわよ。あさりご飯にするのはどうかしら」


私に抱き上げられていたロキはオリヴィエの仕入れてきた魚たちを見ながら、そう提案してくれる。


「それいいね! おかずはタラフライにするのはどうかな?」


ロキと私がメニューの相談をしてると、オリヴィエは「あさり……ご飯?」「たら……ふらい?」と、眉間にしわを寄せながら首を傾げている。

あれ? 異世界にはあさりご飯とタラフライはないのかな。でも、ロキは知っているような口ぶりだったけど……。


問うようにロキを見れば、「前に雪のレシピ本を勝手に見ちゃったことがあるのよ」と教えてくれる。

ようやく腑に落ちた私は「ロキは物覚えがいいんだね」と返事をしつつ、ランチワゴンから黒板のようなスタンド型の看板を出してきた。

そこにチョークに似たペンで【本日のおすすめ、あさりご飯とタラフライ弁当】と書くと、ランチワゴンの前に置く。