先輩、恋愛NGです!

-結衣side

「会えない…」


インタビューが終わり、事務所に戻ってきた。

先輩に教えてもらうと約束して数日。

教えてもらっていません。

何なら会えていません。

そのわけは…


「涼太、海外ロケ中だしね」

「げ、日暮先輩…。」


顔に似合わず、いちごオレをすすりながら隣に座った日暮先輩。

明るい茶髪がいつの間にか金髪のメッシュ入りになってた。


「なんでいるんですか」

「結衣ちゃんセンサーが働いたから?」

「真面目に答えてください。仕事じゃないんですか?」


ホワイトボードを指さして言う。

この事務所に所属してるタレントの中で世間の人気が高い人、つまり仕事が多い人の予定が書かれている。

忙しいため、休憩時間以外はなるべく電話などをしてはいけないという暗黙のルールがあるから。
わたしみたいなタレントは何の関係もないのだけれど。


「実は今日こんな天気だから撮影中止になってさぁ。時間も結構あるし、事務所一回戻ってきたんだよ」

「貴重なオフじゃないですか。どこか行ってきたらどうです?」

「俺レベルになっちゃうと変装してもばれちゃうし?」


事実なのかもしれないが、イラっときてしまう。

本人は当たり前のような顔してるし。

ここまでのナルシストって本当にいるんだ、と実感させられる。


「そうですか。じゃあ、私はこれで。」

「ちょっとちょっと。困ってるんでしょ?俺が助けてあげようか?」

「はい?」


先輩が言う困ってるとはきっと数学発表会の原稿のことだろう。

確かに困ってることは困ってるのだが、先輩が勉強ができるとは思えない。


「もしかして勉強できないと思われてる?」

「まぁ…」

「あはは、正直~。こう見えて首席卒業だよ?」


先輩は私の3つ上。

先輩も勿論ながら私の通う高校の卒業生。

私が入学する春に卒業したから私は先輩の高校生活を知らないんだけど…。


「首席、卒業?」

「ほんとだよ?」


私の知る首席卒業ならば、相当な強者だ。

なんたってうちの高校の偏差値は全国的にも高い分類にはいる。

芸能科だからって絶対の卒業が保証されているわけでもない。

勿論、基準に満たさないものは落とされる。

芸能界の厳しい世界を学校で体験させて慣れさせるため…とか言っているけど、もうすでにトップレベルの人たちは何なんだよって話。

そんな中、首席で卒業だなんって。

栗栖先輩だったら信じていたかもしれない。

しかし、相手は日暮先輩。

信じろ、と言われても少々無理がある。


「まだ信じないみたいだね。仕方ない、時間あるでしょ?ついてきて」

「え、あ、ちょっ」


すたすた歩いて行ってしまった先輩の後を急いで追いかける。

時間あるってことを決めつけられたことに少々怒りを覚えたが、事実なので何も言わない。