-結衣side

「はぁ…」


事務所の休憩スペース。

満さんが社長に呼ばれ、ココアを飲みながら待っていることに。

昨日、日暮先輩と言い合いをしているといつの間にかいなくなっていた栗栖先輩。

日暮先輩曰く、マネージャーに呼ばれていったよ?とのこと。

結局、教えてほしい、と言えなかった。

悩んでいても時間は進む。

真っ白な作文用紙。

それを見るたびに現実なんだといわれるよう。

昨晩、のえるにも相談をしたが“ごめん、仕事ある!”と言われ無機質な音が耳に響いた。

本当に仕事なのか、はたまた面倒だから言い訳をしたのか。

逆の立場だったら同じことするから何も言えないのだが。


「作文なら書けるのに…」

「へぇ、作文は得意なんだ」


机に突っ伏していた顔をゆっくり上げるとニコッと笑っている栗栖先輩。


「栗栖先輩?!」

「あはは、驚きすぎ」


隣に座ったことにまた心臓が高鳴る。

先輩は私の手元を見て悟ったよう。


「進まない?」

「はい…。理数系が本当にだめで。」

「あでも作文は得意ってことは文系は得意?」

「はい、その代わりといっては何ですけど、文系だけは本当に得意で。」


天と地の差、とはこのことだろうというぐらいに理数系と文系で分かれている私の成績。

どうしてこんな生徒を選んだのか、先生にどす黒い気持ちが生まれそうになったが、作文の成績と仕事の関係上、私が今の時点では適任だったのかもしれない。

決まったことをあーだこーだ言ったところで何も変わらないし、これするだけでなかなかの成績つくから、数学の成績が上がった、と思うことに。


「俺と反対だね、俺文系全然だからさ」

「そうなんですか。意外です。見た感じ文系男子って感じします。」


なんていうと先輩は少しうつむいて何かを言った。

しかし、聞き取れるほどの声量じゃなかったため先輩に聞きなおす。


「なんでもないよ」


上がった顔はいつもと変わらない優しい笑みを浮かべていた。

先輩につられるように私も笑顔になる。