【雫side】

六月半ばとなれば梅雨真っ只中なのだが、今日も晴天晴々だ。

とっちゃんが一時帰国してから二週間ほど経つが、どうも様子がおかしい。

私、宮橋雫は彼女の微弱な変化をピコピコと感知している。––––小春の様子がおかしいのだ。

今も正にその変化を目の辺りにしている。


学校帰りの放課後、久しぶりにバンドメンバーと小春、そしてわたしの七人が集まった。場所は恒例の西口にあるファミレスである。

そして今日も蓮の隣の席を小春にキープされてしまった。

ここ最近、これで三連続わたしは椅子取りゲームに敗れたのだ。

更に気になるのは小春の表情だ。

明らかに表情はほがらかとなり、昔の無邪気さを取り戻している。

小春が蓮を好いてるのは昔から変わってない筈だ。だが、中学に入り何故か蓮と距離を置きだしていた。
 ……が、ここに来て彼女は攻勢を強めだした。

どう言う事だ……。

わたしは会話に相槌を打ちながら、小春を観察する。相変わらずの美少女は屈託なく上機嫌だ。

上機嫌の理由……もしかして……この変わり様、蓮と何か進展があったのか……?

遊園地デートと誕生日プレゼントに浮かれている間に形成逆転された心持ちだ。
 
天使な小春に本気を出されれば、わたしに勝ち目が無い。
わたしが小春に勝てる要素は何一つとないからだ。

そんな事は百も承知である。

しかし恋とは盲目であり、淡い期待を捨てきれないものなのだ。宝くじを買う人の心境と同じだろう。薄い確率に夢を見てしまうものなのだ。
 
小春の肩が蓮とくっつく度に、わたしはグラスの中の氷が溶けた苦水をズズズッとストローで吸い込んだのだ。