「ただいま」
先生は家の中に入っていく。僕は玄関先で立ち尽くすことしか出来なかった。無意識に足が震えている。
「……失礼します…」
震えている足を何とか抑えながら、先生の家に上がった。1歩を踏み出す足がまるで足に重りをつけているかのように重い。
「おかえりなさい!ん?その子は…?あ、大樹(だいき)が言っていた子だね!」
ゆっくりと先生に腕を引かれ、歩いていると、1人の女性と目が合った。
「この子は、俺の教え子の紅桜 秋羽くん」
僕は「は、初めまして」と頭を下げた。女性は「秋羽くんね。私は佐藤 真菜(さとう まな)」と微笑んでくれた。
「ご飯、出来てるよ。あ、大樹…空(そら)、呼んできて。ご飯出来たからって」
「分かった。秋羽くん、先にリビングに行ってて」
僕は真菜さんの後を着いてリビングに入る。4人分の料理が机の上に置かれていた。
「……お兄さん、誰?」
後ろから男の子の声が聞こえてきて、僕は後ろを振り返った。その子はどこかの中学校のジャージを着ている。
「僕は紅桜 秋羽。よろしく」
「…俺は佐藤 空」
「…さ、秋羽くんも座って!ご飯、食べるよ~」
僕はいつもと違う光景に戸惑いを隠せない。真菜さんは「遠慮せずに!」と明るい笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
僕は真菜さんに促され、イスに座る。箸を手に取り、ハンバーグを口に運んだ。無言で咀しゃくし、飲み込む。
家では感じない温かさがこの部屋に広がっており、僕は思わず涙を流した。



