「じゃあ、最初は香山さんどうぞ。オレ後ろで押さえてるんで」


にやにやしながら近づいてきた中村さんに、後ろから肩を両手で掴まれる。


足と手は拘束済みだから、拒否する手段を奪われてしまう。


ぎゅっと唇を噛み締めて精一杯香山を睨むけど、効果はゼロ。



「良い眺めだ。蒼唯未桜」


耳元で名前を囁かれて、ぞわあっと襲ってくる寒気。


スマホを片手に、香山が覆い被さってくるから、視界ぜんぶが真っ黒だ。



「....どうせ、最後だからひとつだけ教えてください」


「あ?なんだよ」


私の服を脱がしながら、スマホを操作する香山に言う。




「────8年前、私を誘拐しようとしたのは、あなたですか?」


やけに響いたその言葉に、香山がふわりと顔を上げた。


ヒクヒクと口の端を歪めながら、不気味に笑った香山は。



「そうだ。蒼唯未桜、お前を傷つけたくて、オレがやったことだ」


そのまま、私のズボンに手を掛けると、首筋に唇を近づけて─────






「それ以上未桜に触れてみろ。....殺すぞ、おまえ」



突然響いた、底冷えするような低音。


ぴたりと動きを止めた香山が、振り返ったその瞬間。



「未桜」



聞き覚えのある声と共に現れた影が、やさしく微笑んだ気がした。