「律く....ん」
''律''という文字を、震える指先でゆっくりとなぞる。
声が聴きたい。
やさしい温度を纏った低音で、''未桜''って名前を呼んでほしい。
....なんて、そんなことを思う資格、今の私にはないことはわかる。
声を聴いたら、甘えてしまう。
不安をぜんぶ吐き出して、やさしい言葉をもらって、一時的な温もりに安心して、浸るだけ。
「....っ、ごめんね、律くん」
熱があるからか、頭もメンタルもぐちゃぐちゃだ。
ぽた、ぽた、とスマホの画面に雫が落ちる。
『おまえは強いから』
....ちがうの、律くん。
ぜんぜん強くなんてない、弱さを取り繕うために、表面だけを固めた''強さ''だったんだよ。
もらった言葉に、それ以上のものを返せるような自分になりたい。
胸を張って、好きなひとの隣に並べるような自分になりたい。
「....ほんとう、強かったらよかったのになあ」
ぼんやりとくすむ視界のなかで、落ちたコトバが、透明な雫に掬われて、ぜんぶ溶けてしまえばいいのに、とおもった。



