未桜、と名前を呼ばれてドキッと胸が跳ねる。
口を手のひらで押さえて、ばれないように壁に身をひそめた。
「....司、どう?」
突然、お母さんの声が真剣味を帯びた声に変化したことにびっくりして、目を見開く。
どう、ってなにが....?
なんて、わからないふりをしてみても、こころの深いところでくすぶる、''もしかして''
私がいま、心当たりがあるとするなら、それはひとつしかない。
「あと少しで全部片づく。....だから、そんな顔するな莉子」
「でも、私怖いの。未桜が.....っ、
っあの男のせいで、また傷つくんじゃないか、って」
────ドクリ、と胸の浅いところをえぐられて、奥まで刺されたような
ひゅう、と喉のあたりで息がつまって、呼吸が止まる。
頭が、ぼうっとして動かない。
「....俺は、もう未桜のあんな顔、絶対に見たくない」
「司....」
苦しそうなふたりの声が、静かなリビングに響いて、消えていく。



