この男は信山という男で、3日前からここに泊まっているそうだ。

他に宿泊客がいないせいもあって、この話好きの男は、さきほど食堂で初めて顔を合わせたときからあれやこれやと自分のこと、わたしのことをいろいろとどまることなく話し掛けてきて、かなり迷惑した。
 
わたしは食事中に話し掛けられるのが嫌いだ。他人の唾がわたしの食事に大量に降りかかっていると思うと、背筋が震える。
 
だからこの人も、はっきり言って、嫌いだ。

「どうかしたんですか」
 
嫌いだけど露骨に表情にだせない。体に染み付いたサラリーマンの悲しい性だ。

「いやいや、暇でしてね。話し相手が欲しくって。あ、これ、さしいれ」
 
ビニール袋から缶ビールを取り出す。少し気が晴れた。

「じゃ、遠慮無くいただきます」

「どうぞどうぞ…ぷはーっ」
 
こっちはすでに飲んでいる。やっぱりあまり好きになれそうにない。