よりによって、大の男がひとりで桜の木の下でにやにやしていたのだ。私だって気持ち悪く思う。

あああ、と、夕食が済んでも宿の部屋でひとりもんもんとしていた。

失敗した。いつまでもぐじぐじ悩んでしまうのは、私の性分のせいばかりではない。一瞬だったが、今でもすぐ目の前にいるかのように思い出される、少女の顔。

ずぐん、と胸の奥が疼いた。

なんだ、この感情は?一目惚れなんて言っている歳でもないだろう。まったく、中学生じゃああるまいし。
・・・なんて思ってみても、胸の疼きは嘘にはならない。
いったいどうしたことだろう。こんなことは初めてだ。
この感情の正体を探ろうとすると、また自然と、あの少女のことを考えてしまう。
年のころは十七、八くらいか。おそらくはこの村の住人だろうが、宿の主人には気恥ずかしくて聞けなかった。自分のそういうところも嫌いだった。

頭を抱えていると、

とんとん。

入口の戸(と言っても鍵もついていないただのふすまだ。いまどき!)がノックされ、返事も待たずにすうっと横に滑ると、ひげ面の男の顔が現れた。

「こんばんは~。今、おじゃまじゃないですかね」

へらへら笑いながら、やはり返事も聞かずに部屋に侵入してくる。