桜の木にたどり着く。

乱れた呼吸をするたびに、甘い、濃密な香りが私の肺を満たす。


私の全身は桜の光に包まれていた。


いったい、これは現実なのだろうか。

空を見上げる。

変わらず空はピンクの花びらで埋め尽くされており、しかもその花弁一枚一枚もまたぽうっと白く光を放っていた。

私は軽い眩暈を覚え、目を閉じる。

その目蓋の裏側に、浮かび上がる光景。



視界を奪う花吹雪の中、白いワンピースを着た少女が、手にスコップを持ち、木の根元にできた穴に土をかぶせている。

私は穴の中を覗きこむ。

ああ、やっぱり。

半ば予想していた通り、ひげ面の男が横たわっている。

その顔にも、乱暴に土くれがかけられる。

荒い吐息。

少女は手を止め、背を伸ばして私を見た。

額には汗が玉をむすび、ほつれた髪が彼女の口元にへばりついていた。



ああ。



なんて、美しいんだ。



「まあ、こんばんは」

ふいに声をかけられ、私は驚いて目を開ける。