宿に戻る頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。

玄関に入ると同時に、主が飛んできた。

「おかえりになられましたか。ああ、心配しました。私はまた、信山様に続いて、あなたまで消えてしまったのかと気が気ではありませんでしたよ」

「と、言うことは、信山さんはまだ」

「はい、戻られません。まったく、どこへ行かれたのやら」

主人の心配をよそに、私の心は軽やかだった。

あの屋敷に信山の姿はなかった。それさえ分かれば、彼がどこへ行こうと知ったことではない。

「村の人で、姿を見かけたって人はいないんですかね」

会話を切り上げようと適当に吐いた言葉を主人が拾った。

「ええ、それが、いたんです」