こっそり立ち聞きしていた僕は、母のある言葉を聞いてしまったのだ。

「全ては、咲夜を産んだことが間違いだったのよっ!!」

あれから10年経った今でも、あの時の声、抑揚、周りの匂い、全て鮮明に覚えている。

それは余りに酷く、悲しく、そして深く心を抉られた瞬間だった。




それから暫くして、両親の離婚が決まり僕はこの町から引っ越すことになった。

最後まで揉めていた二人だが、僕は母に付いていくことに関してはすぐに決まったらしい。

でも、あの日の母の言葉は、まだ新しい真っ白な服に付いた泥のように染みついたままだった。

それからは母と二人だけの生活が始まった。

もちろん、あの言葉を忘れた日は一度も無い。

それでも、苦しいことも多かったが何とか乗り越えてきた。