「きっかけはあたしかもしれない。だけど、もうそれは、あんたの叶えたい夢に……希衣だけの夢になってるんじゃないの?」
「あ……」
ようやく意味を理解した。私の心に響く声は、自分でさえ気が付かなかった透明で分厚い壁を、破壊したんだ。
「あたしの名前を使って隠さないでよ。あたしがライバルにならないでって言ったこと、もう忘れてよ。自分の夢のために、頑張ってよ……」
彼女は手で顔を覆い、泣き崩れた。私もそばによって、一緒に泣いた。
優ちゃんは、私が気付かなかった心の奥まで見てくれていたんだ。
いつから私のことを見ていてくれたのだろう。どうして気が付いたのだろう。
ああ、そうか。優ちゃんはずっと、小説家になりたかったんだもの。
物書きの楽しさや、尽きないアイデア、飽きることの無い世界にのめり込んでいた張本人から見れば、私が小説に夢中になっていることくらい、お見通しだったのだろう。
私は、優ちゃんの背中をそっとさすった。けれども、そこに存在する優ちゃんは、やはりまやかしで。
温かみも感触もなく、私の手は優ちゃんという空気に触れただけだった。



