「ただいまぁ」


玄関のドアを閉め、リビングに向かって呼び掛けると、引き戸の間から小さな体が飛び出した。


「ねぇね!」


明るく声を上げ、ぶつかるように私に駆け寄った乃々花は、目が無くなってしまうくらいに愛らしい顔で私を見上げる。


ぴょこんと跳ねた前髪が、ふわふわと柔らかく揺れていた。


「ののちゃんただいま」


腰に手を回す乃々花を抱き締め、私はふぅー、と体に溜め込んだ熱を吐き出す。


体の奥が火照ってしまって、どうしようもなかった。


それを溜息ととったのか、乃々花は私の腕の中で身動ぎをして、私の顔をまじまじと見つめる。


「えんそく、なんかあった?」


あまりにも不安そうに尋ねるから、私は慌てて柔らかい表情を作る。


「ううん、悪いことは何も無かったよ。無かったけど……」


「けど?」


先程まで肩に触れていた柔らかな感触を思い出して、また体温が跳ね上がる。


相当疲れていたのか、あの後私は眠りに落ちていて、気がつけば私は三神くんの肩にもたれかかって眠っていた。


志谷先生に無表情で名前を呼ばれた時には、もう既に学校に着いていて。


湯気が出そうなくらい真っ赤になって、慌てて「いつからですか」と尋ねたら、頬杖を突いたまま「俺も寝てたから知らない」と返された。


でも、多分それは嘘。


眩しいと寝られないから、と行きには顔に被せていた帽子は、ずっと棚の上に上げられたリュックに引っ掛けられていた。


自分がそんな少女漫画のようなベタなことをしてしまったのだと思うと、思い出すだけで恥ずかしくて悶える。


それに──