ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)

髪を退かそうとして耳に触れた三神くんの中指に、私は悲鳴にも似た声を上げた。


早鐘を打つ心臓は、まるで全身を飲み込んでしまったみたいだ。


耳にも、指先にも、体の奥にも、どくどくと血が巡る。


多分、顔は真っ赤。


「いや、そんな驚かんでも」


三神くんは耳に指を突っ込みながら、呆れたように言うけれど、私はそれどころじゃなかった。


最近、ずっとそう。


三神くんが近づくと、心臓がおかしくなる。


鼓動が暴れて、自分じゃどうにもできなくて。


私が私じゃないみたいだ。


なのに三神くんはこっちの気も知らないで。


「み」


「み?」


「三神くんの馬鹿!」


「あ?」


「もう知りません!」


思いっきり顔を顰めた三神くんを放って、私はぴゃーっとその場から逃走する。


完全に言い逃げだ。


体調だけが気掛かりだったけれど、顔色はもう元に戻っていたから問題は無いだろう。


足取りもしっかりしていた。


置いていかれた三神くんは怪訝な顔をしていたけれど、そもそも勝手に触る三神くんが悪いんだ。


腕や手はまだしも、髪とか耳とか、三神くんは時々距離感がおかしい。


本人は自覚していないんだろうか。


誰にでもそう?


三神くんはお姉さんがいるらしいから、それでかもしれない。


でも──


「やっぱり、調子が狂う」


詰めた息の合間に呟いた言葉は、風の音に紛れて消える。


近づいて欲しいような、欲しくないような。


そんな気持ちを、私は持て余していた。