「いいんちょー、帆貴に言っても無駄だってば」


三神くんの2つ後ろの席から上がった声に、私は顔を上げる。


提出のプリントで紙飛行機を折る篠宮くんは三神くんの友達だ。


三神くんと同じく赤点常習犯で、今日締切の課題は端から提出する気がないみたい。


毎回毎回、飼ってる犬に食べられただとか、帰り道で落としただとか、はたまた自分だけ配られてなかっただとか、苦しい言い訳を用意してくるものだから、クラスのちょっとした名物だったりする。


本人は至って真面目らしいけれど。


「篠宮くん、そのプリント成績直結ですよ」


「……まじ?」


篠宮くんの手がぴたりと止まって、丸い瞳が大きく見開かれる。


篠宮くんって本当に感情が顔に出るんだな、なんて呑気なことを思っていると、篠宮くんは唇を引き結んでガタガタと震えだした。


「あ、あの大丈夫」


「やばいよ帆貴。俺ら成績ギリギリだよ?今年仮進級だよ?成績取るのなんか最低限でいいとか思ってたけど、俺ら今絶対最低限未満だよね!?」


「そもそも成績取ろうとか考えたことねぇんだけど」


「帆貴ぁぁ!!」


三神くんはくぁと欠伸をして、篠宮くんは頭を抱えてそれぞれ机に突っ伏した。


休み明けにも関わらず鼓膜を震わす大声に、クラスのみんなは苦笑気味だ。


そんなに危機的状況なら、ゴールデンウィークの軽い課題くらいやっておけば楽なのに、と思うのだけど、篠宮くん曰く、課題はいかにやらずに先生の目を潜り抜けられるかが重要なのだそう。


潜り抜けられているところは今まで見たことないけれど。


それよりも、2年の時点で仮進級というのが相当まずい。


私の知る限り、この学校で仮進級なのは三神くんと篠宮くんだけだった。