ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)

パチン。


頬を通り過ぎ、首の後ろに伸びた慧くんの指先で乾いた音が鳴る。


妙に聞き慣れたその音は、私の視界から赤を攫っていく。


『あ……』


『忘れよう、全部』


制服のリボンをそっと奪って、慧くんは言った。


学校という場所を象徴するかのようなリボンが、私を覆うしがらみを剥がしていく。


自分の体を隠すものがなくなってしまったように心許なくて、けれど新しい私になれたような気もして、私はどうしようもなく鳴る胸の前で、ただぎゅっと手を握った。


慧くんはそんな私の手を懲りずにまた引く。


『行こう』


その声を合図にして、まるでこれまでの人生を取り戻すかのように、私たちは全てを忘れて夏に溺れていく。