ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)

何処へ行けばいいかなんて分からないまま、走って、走って、私たちはどこかの夏祭りに迷い込んだ。


立ち並ぶ屋台にカラフルな看板、走り抜ける子どもの声、香ばしい匂い、遠くで鳴る太鼓の音。


ぱちぱちと弾けるような視界の中で、繋いだ左手の熱が離れた。


『未琴』


慧くんが私の名前を呼ぶ。


もう何度目か分からない。


慧くんに名前を呼ばれると、擽ったくて、もどかしくて、不思議な感覚がする。


その感情に、私はまだ名前をつけることが出来なかった。


知る限りの感情を合わせてみても、それは全く違う色をしているように見えたのだ。


慧くんは右手を私の頬へと伸ばす。


慧くんの体が近づいて、影に覆われて、何故か心臓がどくんと脈打った。


呼吸が触れてしまいそうなくらい、慧くんが近くにいる。