ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)

『……できないよ。きっと、できない』


だって、今までもそうやって生きてきた。


不器用な私が、そんなに簡単に変われるなんて夢物語だ。


今更、どうやって生きていけばいいなんて分からない。


『そう思ってるだけだ』


『でも』


『俺も、想像すらしてなかった。それが当たり前だったから。普通だったから。でも変われた。未琴がいたから、変われた』


『私が、いたから』


『そう。未琴がいたから』


真っ直ぐに届く慧くんの言葉は、とめどなく私の心を揺らす。


『一緒なら、怖くない。──行こう未琴』


慧くんはそう言うと、立ち上がり私の左手とプリントの束を掴んだ。


その手に導かれるように、私は教室を飛び出した。


誰も私たちを止めたりしない。


誰も、私たちを見ていない。


慧くんは職員室で古典の村上先生にプリントの束を返し、学校の外へと私を連れ出した。


村上先生は『ちょっと!』と私たちを呼び止めたけれど、慧くんは振り向かない。


立ち止まってしまいそうな私を引いて、ぐんぐんとスピードを上げる。


私は握られた手から世界が色づいていくような気がして、前を走る慧くんの背中を、何度も何度も瞬きをして見つめた。


本当は、踏み出した足が怖かった。


ちくりとした小さな痛みが胸の奥にあった。


でも、繋いだ手が温かかった。


それだけで、もうよかった。