ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)

他人の、人生。


繰り返した言葉は、静かに耳の奥に張り付いた。


瞬きをしてみても、密かに深く呼吸をしてみても、消えはしない。


鮮明に記憶に刻まれ、焼き付き、離れることもない。


唐突に、ずっと生きてきたはずの“私”がぼんやりと霞んだ。


そして、“誰か”の影と重なり、混ざり合い、ひとつになっていく。


私はそれを、離れたところで眺めている。


私は私を生きてきたはずなのに、その自信がどこからくるのか、足元がぐらりと崩れていく気がした。


それに微かな衝撃を受けながらも、私はどこかでそんな自分の存在に気がついていたような気分がしていた。


私はきっと、ずっと以前から知っていたのだ。


本当は誰の人生も生きていないのだと。


慧くんは決してその言葉を責めるようには言わなかった。


ただ悔しさが滲んだその声に、表情に、この人は他人のためにこんなにも怒ってくれるのだと思った。