ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)

『もう下校したんじゃ……』


登校日は午前中だけだった。


部活がある人は午後まで残るけれど、慧くんも私も帰宅部だから用事がなければそのまま帰る。


終学活の後から姿が見えなかったので、てっきりもう帰ったのだと思っていた。


『忘れもの、取りに戻ってきた』


そう答えた慧くんの声は記憶の中の慧くんの声と同じはずなのに、まるで違う人の声のように聞こえて、私の心臓は意味もなくドクドクと音を立てた。


こんなにも近くて、こんなにも遠い人を、私はこれまでに一度も知らなかった。


慧くんは机を1個分だけ空けて、私の左隣の椅子に座った。


『また、先生に頼まれたの?』


こくり。


言葉で返すことはできなくて、後ろめたくて、私は小さく顎を引く。


慧くんはもう“誰か”を辞めたのに、私だけがいつまでも“誰か”を生きている。


『未琴は──』


慧くんが私の名前を呼んだ。


私はゆっくりと慧くんの方を向く。


『未琴は他人の人生を生きてるみたいだ』