ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)




一緒に行きたいと、大粒の涙を零しながら駄々を捏ねる乃々花をお母さんに任せて、青空の下に踏み出す。


世界がきらきら光って見えるほど日差しは強く、アスファルトに濃く映る影が歩く度に揺らめいた。


家が反対方向の和香ちゃんとは現地集合なので、私は歩いて10分ほどの距離にある駅へひとりで向かう。


久しぶりに切符を買って、改札を通って、風が吹くホームに立つと、急に夏の気配が色濃く感じられたような気がして、妙にそわそわとしてしまった。


電車がやってくると、私は冷房の効いた人気のない車内へ乗り込んだ。


そのまま揺られて30分もすれば、目的の駅に着く予定だ。


ざぁざぁと直ぐに流れてしまう木立の間に、眩しく光る青が見えたのは、窓際の席に座ってしばらくした頃だった。


「あ……海……」


観光客がたくさん来るような、大きな海ではないけれど、空よりもずっと深い色が地平線をつくり出している。


水面は波が白く反射して、まるで太陽が落っこちてしまったみたいだ。


ぱらぱらと砂浜に散るカラフルなボールやレジャーシートは、篠宮くんの友達のものだろうか。


今まで過ごしたことがない夏が始まるのだと思うと逸る気持ちを抑えるのが苦しくて、駅に降り立った時には小走りになってしまった。


冷房の風とは違う、爽やかな風がポニーテールを揺らす。


視線の先で、車止めのポールに腰掛けた三神くんが顔を上げたのが見えた。


その薄い唇が私を呼ぶ。


「いいんちょー」


それだけで、どんな日よりも今日が特別に感じる。