ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)

「……行きたい、です」


心做しか電話を握る手に力が入った。


進まない課題とか、頼まれた仕事とか、後ろ髪を引かれる全部からぎゅっと目を瞑る。


今日だけ、この一瞬だけ、三神くんと“同じ”で居たかった。


『駅、着いたら待ってて。迎えに行く』


三神くんはそう言うと、電話を切った。


私は耳に残る余韻をゆっくりと咀嚼して、はぁー、と息を吐きながらしゃがみこむ。


今更遅れてきた緊張で、体が心臓になってしまったみたいだった。


好きだから、会えないと寂しい。


好きだから、声を聞けると嬉しい。


恋だと知る前と何も変わらないけれど、感情に理由があるだけで世界が違って見える。


小さな言動ひとつひとつが、こんなにも心を揺さぶるなんて。


溢れる期待が、始まったばかりの夏を飽和させていく。


どくんどくん、と高鳴る胸の音に紛れるように、どこかから蝉の声が聞こえていた。