届かぬ指先─映《ば》えない恋の叶え方

ひとしきり笑い合ってから、彼は腕時計をちらっと見て言う。

「そろそろ俺帰るけど、これからどうするの?」

「あ…」


本当はもっと話したかったけど、仕方ないよね。
高かった太陽も少しずつ西に傾き始めてる。


「もう少し写真撮ったりしてから帰るよ」

「そっか」

彼はポケットから自分のスマホを取り出してイヤホンを引き出しながら答えた。


「じゃあまたな」

片耳にイヤホンを挟む。


「あっ!」

踵を返そうとする彼のスマホの画面がちらっと見えて、私は思わず声を上げた。


「それAngelic Guardianの曲じゃない!?」

「あぁ。え、もしかしてこれも…」

「好きなの!私もいつも聞いてる」


私はスマホを振ってみせた。
最近映画の主題歌に起用されて人気が急上昇しているバンドだけれど、私は1年くらい前からお気に入りで東京ではライブにも行っていた。
音楽まで同じものを聞いてたなんて!


「確かにどの曲聞いてもエモいよな、このバンド」

「でしょでしょ!」

「友達がこれのコピーバンドやってるんだ」

「うわぁ!カッコいいね!」

「まぁな。って俺じゃねぇけど」


彼はまたくくっと笑う。
いたずらっ子みたいな笑顔は少し可愛らしく見えて、そのギャップに今度はきゅんとなる。


「そろそろ行くわ」

「あっ、うん!またね」


小さく手を挙げる彼に私も手を振る。

駅の方へと緩く下る坂を長い脚でとんとんと下っていく後ろ姿を見送る。

やがてそれが蜂蜜色の陽に染まり始めた街に消えた。