届かぬ指先─映《ば》えない恋の叶え方

瞳を交わして少しの間の後、彼はくくっと吹き出した。


「いやに謙虚なこと言うね」

「そんなことは…」


おろおろ答える私に彼は訊ねる。

「新入生?」

「あ、はい、いや…」

「どっち?」


彼はまた可笑しそうに笑う。


「先月東京から転校してきて…今月からここの2年生に編入することになって…」

「へぇ」


彼がまたふわりと微笑んだ。
春の午後の柔らかな陽の中で黒髪に光が透けてアンバー色に煌めく。


(あ、なんか…綺麗)


「好きなの?」

「えっ!?好き!?」

「うん、桜とか」

「あ、ぁ…桜…。は、はい…」


(桜…桜のことね…)

なんだと思ったんだろう、私…


「ふぅん」

彼は一瞬ちょっと何かを考えるみたいに宙に眼を遣ってから続けて言った。


「そうだな、この辺りだと他にチューリップガーデンとか科学館のプラネタリウムとかも結構良いと思う」


「あ…!」


彼の言葉に思い当たるところがあった。

チューリップガーデンに科学館のプラネタリウム─


(どっちも今週写真撮りに行ったとこ…)


まだ満開には少し早いけれどたくさんの花に彩られたチューリップガーデンも、まるで本物の空のような大きなドームに映し出される幻想的なプラネタリウムも、このスマホに収めてある。

どちらもこの街きっての観光名所。