降りてきた声に驚いてもう一度彼を見上げると、彼もこちらを見ていた。

柔らかな眼差し。
ふっと微笑んだ表情は優しげで最初の印象よりも大人びて見えた。



「それ」

不意に彼が指を指す。



「えっ？」

その指先の示す先をたどる。



「それ、霊園公園の桜でしょ？」

「あ…」


指の先は私の手元のスマホ。
さっき撮ったばかりの艶やかな桜並木の写真が画面に映っていた。タップしてそれを画面いっぱいに映す。

「すげー、良く撮れてんな」


彼は感心したように言うと、私の隣に顔を寄せてスマホを覗き込んだ。

不意に近くで見た彼はすっと延びた鼻筋と長い睫毛が思った以上に綺麗な横顔をしていた。


「あそこの桜並木、良いよな。俺、すげー好きなんだ」

「あ…うん」


眩しそうに眼を細める彼。
確かにあの桜は本当にまるで夢みたいに綺麗だった。


「自分で撮ったの？」

「う、うん…」

「へぇ、センス良いな！」


彼がさらにスマホに顔を寄せる。
必然的に私との距離もさらに近くなって、スマホを持つ手が少し震える。


「そ、そんなんじゃなくて…。だって、ここがすごく綺麗だったから…」


なんだか上手に言えなくてしどろもどろに返すと、彼はスマホから顔を上げて私を見た。
限りなく黒に近い濃茶色の瞳が私を映す。


(あ…)


透き通るような真っ直ぐな視線に、どうしてだろう、私は眼を逸らせなくてそのまま彼を見つめ返す。