届かぬ指先─映《ば》えない恋の叶え方

夜。
私はぱたーんと仰向けにベッドに倒れ込む。


(今日もいっぱい走ったなー!)


こっちに引っ越してきてから私は毎日愛車の自転車であちこち走り回っている。

部屋の中にはまだ開けてもいないダンボールも積んであるけれど…
でも私は外に出ずにはいられなかった。


(しょうがないよね。だってこの街のこと、みんなに伝えなきゃだもん)



2週間前、私は父の仕事の都合で東京からこの街にやって来た。

それまで暮らしていた街で、私は16年間生まれ育った。都心からも程近いのに海の青と森の緑に囲まれた賑やかな住宅地。
そこには引っ込み思案な私でもたくさんの友達がいた。


引っ越しが決まったとき、友人たちはみんな人見知りな私のことをとても心配してくれた。

『離れていても愛澄には私たちがついてるよ』

その言葉に励まされた。

でも…

『それでも辛くなったらいつでも帰っておいで』

そう言われると、簡単に逃げ帰って余計に心配をかけたくないとも思った。


遠く離れた街でも私は元気だよ、と、毎日楽しくやってるよ、とみんなに伝えたいと思った。
愛澄は大丈夫と安心させてあげたかった。

そのためにSNSを始めた。

フォロワーは友達だけ。
引っ越しの翌日から私はこっちの観光スポットやご当地グルメの写真を撮り始めた。
水族館に洋館、チューリップガーデン、桜の名所の霊園公園、ご当地ラーメンにご当地丼、できたばかりのタピオカドリンク屋、可愛いカフェの看板、いつも食べてるお菓子の地域限定フレイバーなどなど。